脊椎固定
病院前環境での脊椎固定は、脊椎の動きを制限してさらなる損傷を予防することを目的としています。
脊椎固定の条件
受傷機転から脊髄損傷が疑われる場合、あるいは脊髄損傷の徴候や症状が現れている場合は、脊椎固定を考慮します。JRCALC(Joint Royal Colleges Ambulance Liaison Committee、2006)の脊椎固定ガイドラインが示す意思決定フローチャートは、以下を参照してください。

脊椎損傷の除外
意思決定フローチャートで固定が必要ないと判定したら、医療従事者はピッチ上、または、医務室で「脊椎損傷の除外」を実施します。この手順は、カナダのC-Spine Rules(Stiell IG、2001)(C. C. Stiell IG、2003)、NEXUS、および、NICEの推奨に従って ICIS Facultyによって推奨されているものです。 ガイドラインが示す頸椎損傷を除外する基準:
- 受傷機転に脊椎・脊髄損傷の疑いがない 意識レベルの低下がない(GCS 15) 神経的な徴候、または、症状がない その他の損傷がない 頚椎正中線に圧痛がない アルコール、または、薬物の影響を受けていない 頚部を自分で45度以上左右に回転できる 屈曲および伸展ができる
頚椎損傷の除外のために推奨されるICISの手順:
- MILSを維持したまま、頸椎と上位胸椎の正中線の圧痛を触診します。(胸椎、または、腰椎の損傷の疑いがある場合は、傷病者にログロールを行い、正中線の圧痛を触診します) 正中線上の圧痛がない場合は、傷病者に自力でゆっくりと頭部を左右に回転、伸展、屈曲してもらいます。次の症状が見られる場合はただちに動作を停止します:
- 正中線の痛み
- 動作障害
- 神経障害
これらの症状が見られた場合は、傷病者の頭を中間位に戻し、MILSを再度実施して、脊椎固定して医療機関へ搬送します。 プレーヤーが上記の異常がない場合は、傷病者を介助して長座位の姿勢にし、上記の触診、および、動きの検査プロセスを繰り返します。 上記の2に記されている症状が見られたらただちに脊椎を固定します。 プレーヤーが以上の正常である条件を満たしている場合は、傷病者に頚部を自力で徐々に正常時の動作範囲まで動かしてもらいます。頚部の検査がすべて完了したら、他動可動域と徒手筋力テストを行います。
頚椎カラー

頚椎カラーはすべての面の運動を制限しますが、これだけでは適切な固定ができないというエビデンスが示されています。頚椎カラーは、MILS、頭部ブロック、ストラップ、テープと併せて使用します。頚椎カラーにはいろいろなサイズがありますが、サイズの調整できるタイプのカラーが便利です。たいていの成人の頚椎にフィットします。子どもの傷病者には、小児用のカラーが必要になります。サイズ調整の可能な頚椎カラーについては、付録 1を参照してください。 頚椎カラーは、胸部、胸郭、鎖骨、僧帽筋の皮膚に密着するように装着します。
ログロール
ログロールは、脊椎を解剖上の正しい直線に維持し、傷病者の搬送中の脊柱や脊髄へのさらなるダメージを予防することを目的としています。 ログロールは、次の状況で実施します:
- 傷病者を伏臥位、または、側臥位から仰臥位に移行する場合 傷病者をバックボードやレスキューボードに乗せる場合 傷病者が嘔吐し始めた際に側臥位にする場合
ログロール手順の詳細は、付録 2を参照してください。
固定器具と手技
バックボードを使用したプレーヤーの救出方法は、まず、プレーヤーを90度回転させてボードを差し込み、ボードの上に乗せます。そして、プレーヤーの身体がボードの中央に位置するように調整します。ボードを斜めに傾け、プレーヤーの身体をボード上でスライドさせれば、位置を調整します。できれば、バックボードを一度だけ上へ動かして高い位置にします。プレーヤーの身体がボードの中央にきたら、頭部ブロック、および、テープを装着する前に、ストラップを装着します。 近年は、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂製のスクープストレッチャーが注目されています。これらのボードは不必要な動きをなくすことを目的としています。従来のバックボードは、負傷したプレーヤーをボード上に乗せるのに身体を90度回転させてなくてはなりません。救急医療部門でボードから降ろす際も、同様の動作が必要になります。新しいスクープストレッチャーは15度の傾斜だけで傷病者をボードに乗せることができます。救急医療部門でボードから降ろす際には、脊椎検査のために身体を回転させなくてはなりませんが、より制御された環境で実施するためそれほど懸念はありません。さらに、スクープストレッチャーは、バックボードが軟組織を圧迫することで発生する圧迫虚血を予防します。熱可塑性ポリプロピレン製のものは、従来のアルミニウム製のスクープストレッチャーと比較した場合、さまざまな利点があります。
- 最大許容荷重159kgで大型プレーヤーの搬送にも対応 X線撮影対応 従来のバックボードに比べて傷病者のボード上での動きを制限 1時間の虚血時間を置く
スクープストレッチャーの使用には、次のようなデメリットもあります。まずは、プレーヤーの体格は様々であることです。例: ラグビープレーヤーの搬送は、どちらの器具でも問題になります。フロントローのフォーワードの身体の幅は最大70cmであるのに対して、これらの器具の幅は最大47cmです。ハンドルが突出していないため掴み難い点も挙げられますが、ストラップハンドルを使用することでこの問題は解決できます。背の高いプレーヤーの搬送では、(ラグビーではセカンドローのフォーワード)アルミニウムの延長部分に重心がかかってしまいます。この場合は、補助スリーブ、または、バキュームマットレスなどの使用を考慮します。 付録 4を参照してください。 脊髄損傷の疑いがあるプレーヤーを搬送する際に、搬送時間が45分以上かかる場合は、バキュームマットレスの使用を考慮します。付録 4を参照してください。 フィールドオブプレーからの搬送は、経験値のある訓練されたチームが行います。各イベント、または、試合前に予行演習を実施します。プレーヤーの搬送は足の方向から先に運び出し、頭側を運んでいる救助者に進行方向が見えるようにします。付録3を参照。 救助者が足元を滑らせないように、また、負傷したプレーヤーを落とさないようにするために、バギーを使用することもあります。バギーを使用することで体重の重いプレーヤーも滑りやすい表面で心配なく搬送できます。医務室、または、救急車への搬送ルートは、予行演習で確認しておきます。
